あなたは『わたしメッセージ』という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
私がSNSでアンケートしたところ、回答した半数以上の方が『意識して使ったことがある』そうです。(『わたしメッセージ』使用者が検索して回答してくれた可能性はありますが・・・)
私が『わたしメッセージ』と出会ったのは看護師時代です。勉強熱心な先輩がコミュニケーションスキルの一つとして教えてくれました。この頃は「わたしメッセージってなんか良いな」くらいだったのを覚えてます。
看護師を辞めて主夫になってからは、育児書やコミュニケーション関連の本で『わたしメッセージ』を見かけるようになりました。
そこから「『わたしメッセージ』って何だろう」と思いが強くなりました。いろんな書籍で『わたしメッセージは良い』と書いてあっても、いまいち分かりづらい。私としては「もっと詳しい使い方知りたい」という思いが募る一方でした。「本当のわたしメッセージはどこ?」久しぶりの片思いです。
意識すると案外見つかるもので、考案者の書籍を数冊読みました。厳密には考案者という保障は出来ませんが、行きついた『わたしメッセージ』は皆さんに紹介したくなるコミュニケーションスキルでした。
本記事ではトマス・ゴードン博士が考案した『PET Parent Effectiveness Training(日本では『親業』)』の中の『わたしメッセージ』というスキルを参照します。
『親業』の『わたしメッセージ』を一言で表すと『相手の行動から発生した自分の問題を、相手の問題として認識してもらうコミュニケーションスキル』です。
『親業』の印象を一言で表すと『お互いの主体性が育まれるコミュニケーションメソッド』だと感じました。
本記事では書籍を参照し、『わたしメッセージ』の使い方・特徴・限界を紹介します。
- 使い方編:『わたしメッセージ』とは『相手の行動・行動からうける影響・影響から生じた感情の3部で構成されるコミュニケーションスキル』
- 特徴編:『わたしメッセージ』をつかうと『自分の問題を相手と共有できて、相手の自主性をもとに問題を解決できる』
- 『わたしメッセージ』は最強じゃない?!『わたしメッセージ』の限界と対策
- まとめ:『わたしメッセージ』を調べたら、素敵なコミュニケーションメソッド『親業』に出会えた
- 余談:あえて一冊を選ぶとしたら『新装版 理由ある反抗』
- 書籍紹介
使い方編:『わたしメッセージ』とは『相手の行動・行動からうける影響・影響から生じた感情の3部で構成されるコミュニケーションスキル』
本項目では『わたしメッセージ』の使い方を解説します
ゴードン博士は、「わたしメッセージは三部構成で」と言っています。子どもの行動を「非難がましくなく」、自分への影響は「具体的に」、感情は「率直に」述べるようにということです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 あなたメッセージから「わたしメッセージ」へ
書籍『新装版 理由ある反抗』の例を参照します。
スパゲッティを食べているとき。はじめはフォークで食べていたのに、そのうち手づかみになる。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 あなたメッセージから「わたしメッセージ」へ
母親 ミキ、手じゃなくて、ちゃんとフォークで食べて。
娘 だってこのほうがいいんだもん。
母親 ミキがスパゲッティを手で食べながら振り回したりすると、周りが汚れるし、手がベタベタになるでしょう。お洋服も汚れるからママとてもイヤなの。
娘 (一瞬キョトンとした感じで)「わかった」
この例では以下の3部構成が成り立っています。
行動 | ミキがスパゲッティを手で食べながら振り回す |
影響 | 周りが汚れる 手がベタベタになり、洋服が汚れる |
感情 | ママはとてもイヤ |
『わたしメッセージ』を使うと『自分の問題を相手の問題として認識してもらえる』
スパゲッティの例で説明します。母親が『わたしメッセージ』を使ったことで、ミキちゃんは『ママが嫌がっている』ことが分かりました。母親がミキちゃんにとって大事な人であればあるほど、『ママがイヤに感じる』ことはミキちゃんにとって問題になるのです。
『親業』の『わたしメッセージ』の前提:『問題所有の原則』と『行動が起こす問題の受容・非受容という概念』
『問題所有の原則』とは以下の通りです。
子どもが問題をもつとき、その問題の所有権は子どもにあるので、それを他者が取り上げてはならない、というものです。つまり子どもの問題は親が一方的に解決してはならないのです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第1章 いまなぜ親業か?
逆も同じです。親の問題は親が解決の権利をもっています。解決の先に成長があり、問題所有の原則を破ると成長の機会を取り上げることになります。
行動が起こす問題の受容・非受容という概念について説明します。
子供がとる行動を受容・非受容の軸で考えます。親子の場合は、親が子供の行動を受け入れられるか、受け入れられないかです。
図を参照ください。
親が受け入れられないということは、親が問題を持つということになります。
この親の『非受容領域の問題』に対して有効なスキルが『わたしメッセージ』です。
親の問題を『わたしメッセージ』で伝えることで、『相手の行動から発生した自分の問題を、相手の問題として認識してもらえる』のです。
あなたの「わたしメッセージ」が子供に問題を引き起こしたのだから、いまこそ理解と受容を示すときである。
トマス・ゴードン 著 近藤千恵 訳 『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』 第6章 「わたしメッセージ」を使う
中略
子供は、親が自分の気持ちを理解してくれたとわかったあとは、自分の行動を変えることが多い。ふつう、子どもが望むのは、「自分」の感情を親のあなたが理解することであって、いったんその理解が得られれば、こんどはあなたの感情についてなにか建設的なことをする気になる。
肯定的な『わたしメッセージ』は子どもが信用できるものでなければならない
『わたしメッセージ』は三部構成を守ればうまくいくのでしょうか。
肯定のわたしメッセージは、子どもが信用できるものでなけらばならない。したがって、そのときのあなたのほんとうの感情、その感情の強さを、正確に表すものでなければならない。正直でほんもののメッセージ、でなければならない。自然に出て、タテマエではないホンネで、隠れた議題のないもの、なのである。
トマス・ゴードン 著 近藤千恵 訳 『親業・ゴードン博士 自立心を育てるしつけ』 第3章 なぜ賞はうまくいかないのか
以下の3点が大事なようです。
- 自然に出る
今、ここでの感情。 - ホンネ
メッセージが内的な感情と一致している。 - 隠れた議題がない
子どもの行動を変えたいとか、教訓や評価したいとかの目的ではないこと
『自然に出る』『ホンネ』については感覚的に分かり易いと思います。『隠れた議題がない』を2点補足説明します。
「いつものような髪のまとめ方より、今晩の髪形のほうが、よっぽど好きだわ」のメッセージを送ったとします。
このメッセージには『今晩の髪形は好き』と同時に『いつもの髪形は今晩よりいまいち好きじゃない』という見方も出来ます。
人はネガティビティバイアスという性質のせいで、ネガティブな側面に注目します。結果として「いつもの髪形にしないほうがいいのね」がという誘導された印象が色濃く残ります。
親の『普段も今晩の髪形にしたい』という議題が隠れているのです。
2点目は『子どもの行動を変えたい』目的ではないことについてです。
受容できない問題行動を変えたいから『わたしメッセージ』を使うんじゃないの?と思った方もいると思います。
これは私の解釈ですが、子どもの行動を『変えたい』ではなく『変えて欲しい』なら良いのだと思います。
親業という言葉から、親とはこうあるべき、そのためにはこうするといい、といった理想像を提示して、そこへ道案内をしてくれものを想像する方もいらっしゃるようですが、そういうものではありません。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第1章 いまなぜ親業か?
また、子どもの理想像が提示されるわけでもありません。あるとすれば、子どもは自立心があり、協調的で、自分で自分の行動に責任のとれる人間にするのが望ましい、とするゴードン博士の哲学だけです。
『親業』の根底には『子どもも自立した方がいい』という考えがあります。子どもの行動を『変えたい』だと自立を促すことにはつながりません。しかし、『変えて欲しい』だと子どもに考える余地を残しています。自立を望むなら、子どもがどのように行動するかは子どもが決める必要があるのです。
これが私が『子どもの行動を『変えたい』ではなく『変えて欲しい』なら良い』と考えた理由です。
『わたしメッセージ』の誤用3選
間違った『わたしメッセージ』の使い方を見てみます。間違わないことで、より効果的に使用することが出来ます。
- 偽の『わたしメッセージ』
主語をわたしにした『あなたメッセージ』になっている - 否定が協調されている
同じ行動からでた感情の中で否定的感情が強調されている - 怒りのメッセージ
『親業』では怒りは二次的感情としてみており、『あなたメッセージ』となる
誤用1)偽の『わたしメッセージ』:主語をわたしにした『あなたメッセージ』
「おまえはのろまだ、と私は思う」
これは『わたしメッセージ』の様に見えます。しかし三部構成が成り立っていません。
そして『親業』での『わたしメッセージ』は相手を評価しません。褒めることも叱ることもすすめていません。
ところがわたしメッセージは、相手を評価しない。自分について伝えるのだ。この違いは決定的といえる。
トマス・ゴードン 著 近藤千恵 訳 『親業・ゴードン博士 自立心を育てるしつけ』 第3章 なぜ賞はうまくいかないのか
『あなたメッセージ』は非難めいて、批判的になりやすい
『あなたメッセージ』は主語を『あなた』にしたメッセージです。
例えば、子どもが食卓での行儀が悪い場合です。「お行儀よく食べなさい」より「そんなに汚い食べ方をされたら、お父さんはせかくのご飯がまずくなってしまって残念だな」の方が批判的になりません。
非難や批判をされて喜ぶことはあまりないですよね。
誤用2)否定が協調されている:同じ行動から生まれた感情の中で否定的感情が強調されている
親と約束の帰宅時間を大幅に過ぎてしまった子ども。親は約束を破ったことに対して「腹立たしい」や「事故に遭ったんじゃないかと心配した」と否定的感情を伝えるかも知れません。それと同時に親は、「無事な姿を見てほっとした」などの肯定的感情もあったはずです。
親としては門限を守って欲しい。ではどちらの言い方がより門限を守りたくなるでしょうか。おそらく肯定的感情ではないでしょうか。どうせ伝えるなら肯定的感情の方がいいのです。
誤用3)怒りのメッセージ:怒りのメッセージは『あなたメッセージ』と同じ
怒りがこもったメッセージは「私はあなたの行動で怒っている」と言っても、相手は非難と受け取ってしまいます。
人は怒りを向けられると、闘争行動や逃避行動をとってしまうので建設的な解決に向かいません。一刻も早くその状態を抜け出したいのです。
『親業』では怒りは第二次的感情として捉え、怒りを生んだ第一次的感情があるはずだと考えます。
そして怒りとは、その前に何かの感情を経験して、その結果親の中から生まれてくる二次的感情ではないかと分析しています。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第4章 あなたメッセージから「わたしメッセージ」へ
中略
親業訓練の講座では、怒りの感情を頻繁に爆発させるときこそ、「私の内部では何が起こっているのか」「子どものあの行動で、最初に起こった感情は何だったのか」について、自分自身とよく対話をするように、自分自身に問いかけるようにします。
怒りがこみ上がってきたきた場合は、一次的感情にフォーカスを当てて『わたしメッセージ』を使いましょう。
使い方のコツ1選:自他の境界線を越えると『わたしメッセージ』ではなくなる(ぴょん吉解釈)
この項目では、ぴょん吉の解釈をゴリゴリに述べます。
『親業』では親子それぞれを別の人間とする考えがあります。親だって人間なので、我慢のし過ぎはよくありません。我慢のし過ぎで子どもに当たってしまうのは本末転倒です。
ここで大事になるのが『自他の境界線』です。自分と相手の間にある境界線です。同じ家にいても、あくまで別人。親の考え方を示したとしても、強制はしない。『相手も自分も尊重する』、そんな考え方です。
あれって『わたしメッセージ』として正しかったかな?と思った時、『自他の境界線』を意識すると、一気に使いやすくなります。
『わたしメッセージ』の三部構成を『自他の境界線』の観点でみる
三部構成の相手の『行動』と『影響』と自分の『感情』は、親視点で『自他の境界線』を越えていないでしょうか。
相手の『行動』は『自他の境界線』を越えています。親の受容と非受容の境界線を越えているので、当たり前です。
『親業』の『わたしメッセージ』には解決策が含まれません。あくまで感想なのです。解決策を含んだ場合、相手からみると強制めいたニュアンスを含みます。『自他の境界線』を越えているのです。
『わたしメッセージ』は子供が信用できるものでなければならないを『自他の境界線』の観点でみる
子どもが信用できるものでなければならないは、以下の3つの要素を含んでいました。
- 自然に出る
今、ここでの感情。 - ホンネ
メッセージが内的な感情と一致している。 - 隠れた議題がない
子どもの行動を変えたいとか、教訓や評価したいとかの目的ではないこと
『自然に出る』『ホンネ』は自分の感情について述べるので『自他の境界線』を越えていません。
『隠れた議題がない』も教訓や評価したい、行動を変えたいを含んでいないので、『自他の境界線』を越えていません。
『わたしメッセージ』の誤用を『自他の境界線』の観点でみる
『偽のわたしメッセージ』こと『あなたメッセージ』は、『自他の境界線』を越えています。あなたを主語にすると簡単に『自他の境界線』を越えます。
『否定が強調されたわたしメッセージ』は怒りなどの相手に向かった感情が強調されると『自他の境界線』を越えてしまいます。
『怒りのわたしメッセージ』は相手に向かっている感情なので、『自他の境界線』を越えています。一次的感情に目をむければ、『自他の境界線』を越えることはないでしょう。一次的感情が相手に向いている怒りなどであれば、時間と場所の距離を置くのが賢明です。
書籍『新装版 理由ある反抗』の紹介
『親業』の理論が分かり易く解説された一冊。ぴょん吉的には、『親業』を学ぶための一冊目におすすめ。
書籍『親業・ゴードン博士 自立心を育てるしつけ』の紹介
『親業』のもととなる『PET:Parent Effectiveness Training』考案者の書籍。叱ることと褒めることの限界を述べ、別の方法を提案している一冊。
特徴編:『わたしメッセージ』をつかうと『自分の問題を相手と共有できて、相手の自主性をもとに問題を解決できる』
『わたしメッセージ』を使うと『相手の行動から発生する自分の問題を、相手の問題として認識してもらえ、相手の自主性のもとに問題を解決できます』。
これを理解するために『わたしメッセージ』の特徴を見てみましょう。
『わたしメッセージ』の特徴4つ
『わたしメッセージ』の特徴を書籍をもとに解説します。
- 対話の解読が容易になる
- 他者への影響が明確になる
- 親が自分を隠さずにさらけだせる
- 良い悪いの評価をしない
それぞれを解説します。
『対話の解読が容易になる』、『他者への影響が明確になる』のは『3部構成』のコツがポイント
ゴードン博士は、「わたしメッセージは三部構成で」と言っています。子どもの行動を「非難がましくなく」、自分への影響は「具体的に」、感情は「率直に」述べるようにということです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 あなたメッセージから「わたしメッセージ」へ
三部構成には以下のコツがあります。
- 子どもの行動
非難がましくなく - 自分への影響
具体的に - 自分の感情
率直に
これらのコツを守ることで『わたしメッセージ』は、子どもからみて解読が容易になります。
書籍『自立心を育てるしつけ』では『わたしメッセージ』は子どもが信用できるものでなければならないとし、その要素の一つに『否定を強調しない』とありました。
書籍『新装版 理由ある反抗』の著者である近藤千恵氏は、米国でPETのインストラクター資格をとり、日本での親業訓練協会設立に携わった方です。
三部構成の行動を『非難がましくなく』と表現している点は、『否定を強調しない』を踏襲しているのだと思います。(ぴょん吉解釈)
対話の解読を容易にすることは日本の察する文化と逆を行く発想ですが、「意図を分かってもらえない」と嘆くより良いのではないでしょうか。
他者への影響も『具体的』に表現するのがポイントです。子どもはすべての行動を悪気があって取っているわけではないです。親に構って欲しくてとる行動もありますが・・・。
子どもは自分の行動が、まさか親を不快にさせているなんて思っていないのです。
その影響を明らかにするのが『わたしメッセージ』の特徴です。
相手側がメッセージを解読する手間を取ることで、相手の行動で自分に影響が起きていることが端的に伝わります。
親が自分を隠さずにさらけだすから、人間味がでて相手を動かす
子どもはどこか親のことを完全だと思っていると感じたことはありませんか。
「お父さんって、泣いたことないよね」「お母さん、なんでも出来るね」
子供は小さければ小さいほど親を万能と思い、またいくつになっても親は非常に強い存在だと思い込んでいるところがあります。とくにつねに理性的で感情的になるところをみせていない親の場合、子どもにとってはいつも”立派な親”で、泣いたり笑ったり、不快と思ったりしない、動じない存在だと思い込むところがあるものです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 あなたメッセージから「わたしメッセージ」へ
そんなふうに思い込んでいた親の”人間味”に触れると、子どもは親もまた自分と同様に一個の人間だということがわかるのです。
完璧な人間の前では、どこか引き目を感じるものです。『わたしメッセージ』では一人の人間として感情を出すことで、相手にも「あなたもそうしていいんだよ」というメッセージが伝わるんじゃないでしょうか。
そして子どもも同様に感情を出すようになり、対話が行いやすくなるのです。
良い悪いの評価をしないから、自立心が育まれる
書籍『自立心を育てるしつけ』でトマス・ゴードン博士は、褒める事と叱る事の限界を述べています。そして褒めると叱るのかわりに『親業』で体系化された方法をすすめています。
『わたしメッセージ』は正しく使えば、評価にはなりません。評価がないと、子供は困らないのでしょうか。評価されないので、子どもはどうすればいいかを自分で考えます。自分で考えるので、自立心が育まれるのだと思います。
評価されて出来上がった判断基準は、あくまで他人の判断基準です。他人の判断基準で生きるのはとても辛い事だと、私は考えます。
ぴょん吉的『わたしメッセージ』が効果的な理由1選:自分で行いたくなる三つの欲求を満たしているから
人は『有能感』『関係性』『自律性』の欲求を満たせば、モチベーションを感じやすくなるという考え方があります。
- 有能感
自分が何かをうまくできている、成長しているという感覚 - 関係性
他人と繋がっている感覚 - 自律性
自分で選択し、決定しているという感覚
『わたしメッセージ』はこの三つの欲求を満たしやすくなっています。親から肯定的な『わたしメッセージ』が送られると、『有能感』が刺激されます。
大好きな親と繋がっている感覚『関係性』も刺激されます。そして、行動を強制されないので『自律性』も担保されます。
『わたしメッセージ』はこれらの三つの欲求が満たされやすいので、自己決定しやすくなると考えました。
『わたしメッセージ』は最強じゃない?!『わたしメッセージ』の限界と対策
『わたしメッセージ』には良い点だけなのでしょうか。物事は様々な側面からみないと本質は見えません。
『わたしメッセージ』のデメリットもみてみましょう。
- 指示する時に適していない
明確に指示が必要な場合、緊急時には適さない - 条件のない「受け入れ」がないと成り立たちにくい
- 相手の問題解決には効かない
指示する時には適していない
『わたしメッセージ』は感情を伝えるので、指示は含まれていません。明確にとって欲しい行動がある場合や緊急時には適していません。
そういう場合は、はっきりと指示をしましょう。
指示が必要な場合も長期の視点でみれば、『わたしメッセージ』は有用です。予防的に使うのです。
おとなが自分の欲求をはっきりと示し、自分の欲求を将来実現するのに、子どもからの援助や協力、直接の行動を求めているのだと伝えるとき、それは、予防のわたしメッセージとなる。
トマス・ゴードン 著 近藤千恵 訳 『親業・ゴードン博士 自立心を育てるしつけ』 第6章 コントロールせずに、子どもが行動を変えていくには
保育園に徒歩登園していたとします。親としては車が行きかう道は危険でハラハラします。車の前に飛び出す我が子に『わたしメッセージ』を使って「あなたが走ると、車にぶつかりそうで、お父さんは心配だ」と伝えるのは悠長です。
そこで、普段手を繋いで歩いている時に「あなたが手を繋いで歩いてくれると、車の前に飛び出さないから、お父さんは安心できる」と伝えるのが『予防のわたしメッセージ』です。
大すきなお父さんに喜んでもらいたいから、手を繋いで歩いてくれる頻度は上がるのではないでしょうか。
条件のない「受け入れ」がないと成り立ちにくい
『わたしメッセージ』は相手に行動の選択権を残しています。行動の強制をしていません。書籍『新装版 理由ある抵抗』では『受け入れる』ことについて以下の様に重要だと述べています。
なぜこんなに「受け入れる」ということに重きが置かれるかというと、それはありのままの姿で受け入れられるときに、人は安心感をもって心を開き、また「自分は愛されている」と感じるからです。これはだれしも体験的にわかる感情です。ご飯を残さず食べたからとか、友達と仲良くしたから、学校の成績が良いから、正直だから、仕事の業績がいいから……という「条件付き受容」ではなく、自分がありのままの姿で受け入れられるとき、人は愛されているという感情をもつのです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第2章 心の扉を開く「受動的な聞き方」
中略
そして「自分は愛されている」という感情が基盤にあるときに、人は安定した精神をもって、問題に正面から立ち向かうことが出来ます。不必要に攻撃的にならず、他者を受け入れたり愛したりすることができ、大きく成長することができるのです。心理学では、この「愛されているという感情のもつ大きな力」が「心身の障害への治療効果」に大きく影響することが認められています。
相手にありのままを受け入れられていると、問題に正面から立ち向かうことが出来ます。
『わたしメッセージ』では子どもの行動から受けた問題を、子どもの問題として認識してもらう効果がありました。そんな時、子どもは驚くかもしれません。
「まさか、自分の行動が親を困らせていたなんて」
でも、普段からありのまま受け入れられていたら、問題と正面から向き合い、成長の機会に出来るのではないでしょうか。
『わたしメッセージ』を一度投げかけただけで、行動が変わるとは限りません。うまく『わたしメッセージ』が使えてない可能性があります。そうでなければ、普段からの受け入れが足りてないのかもしれません。
『親業』では「親に受け入れられていない」と感じさせやすい『お決まりの12の型』を紹介しています。
- 命令
何かをするように(しないように)言う、命令する - 注意・脅迫
ある行動をすれば思わしくない結果になることをにおわせる - 訓戒・説教
何をすべきか、何をすべきでないかをいう - 講義・理詰めの説得
親の知識や経験が子どもより多いことを裏付けに論理を展開し、子どもの判断に影響を与えようとする - 助言・解決策などを提案
どうしたら問題が解決できるか、助言、提案を与える。子どもに代わって答えや解決策をだしてしまう - 非難・批判
子どもに対して否定的判断、評価を下す - 悪口・侮辱
- 解釈・分析
なぜそんな言動をするか、子どもの行動の動機や原因を分析したり解釈したりする。子どもの気持ちがわかっていることや、子どもの診断をすませたことを伝える。 - 同意・賞賛
肯定的評価、判断を示す。同意する - 激励・同情
子どもの気持ちをよくして、いまの状態から抜け出させようとする。子どものいまの感情は強いものでないと思わせようとする。 - 質問・尋問
原因、動機、理由を知ろうとする。親が自分で問題を解決するのに役立つ情報を子供から得ようとする - ごまかす・皮肉
問題から子どもをそらせようとする。親自身が問題から逃げる。子どもの注意をほかへそらす。冗談や皮肉にまぎらわせる
私は『お決まりの12の型』の幾つかを良かれと思って行っていました。子どもからしたら「どうせ、何をしても文句垂れてくるんでしょ。それならやらない」ってなるんじゃないでしょうか。それは自立心の阻害です。
『親業』では十二分な信頼関係が築かれ、言葉の基盤に愛情を実感している場合は、そう神経質になることはないと述べています。そうでなければ『お決まりの12の型』には気を付けましょう。
受け入れを妨げる方法は分かりました。受け入れを促進する方法も見てみましょう。
『親業』では自分が相手を受容していることが相手にきちんと伝わる言い方として『受動的な聞き方』を3つ挙げています。
- 沈黙
- あいづち
- うながし
ここで大事なのは、聞き手は、「もっと聞きたい」「私はあなたに関心がある」というメッセージ以外、話題の内容に関して自分の考えや判断を伝えるメッセージは送らないことです。なぜなら、聞き手が話し始めてしまったら、もはや聞き手ではなくなるからです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第2章 心の扉を開く「受動的な聞き方」
子どもが受け入れられていると感じられることが、『わたしメッセージ』で与えられた問題を解決したいという原動力になるのです。
相手の問題解決には効かない
相手の問題に対して「私は〇〇をした方がいいと思う。」はそもそも『親業』の『わたしメッセージ』ではありません。
子どもがよく宿題をするのを忘れたとします。
親は宿題をしなくても、元気に育ってくれればいいと特に問題視していません。親は問題視していないので、真の『わたしメッセージ』はだせません。
子どもは宿題を忘れて、先生に怒られることは嫌だと思っています。この場合、『子どもの宿題を忘れる』という行動を受容できないのは子どもなので、子どもの問題です。
相手のみが問題を抱えている場合『親業』では『能動的な聞き方』が相手の問題解決に有効だとしています。
能動的な聞き方とは、記号の正しい解読作業を通しながら、親が理解し、共感していることを、子どもにわかるように伝える方法です。さらには子どもが自分の感情を整理する手助けを得て、自分で問題の解決策を見つけ出すことも実に多いのです。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第3章 子どもの心をつかむ「能動的な聞き方」
『親業』の『能動的な聞き方』には以下の3つの方法があります
- くり返す
- 言い換える
- 気持ちをくむ
これはごく小さな聞き方の変化なのですが、子どもは親から投げ返された「くり返す」「言い換える」「気持ちをくむ」という言葉から、自分が理解と共感を得たことを実感します。
近藤千恵 著 『新装版 理由ある反抗』 第3章 子どもの心をつかむ「能動的な聞き方」
そして「理解と共感を得た」と実感することで、子どもは本当にびっくりするくらい変わります。
中略
体内にあるモヤモヤとした感情が相手にわかってもらえたということで、子どもはその感情による束縛から解放され、さらなる課題に取り組むことができます。自分の感情を言語化して整理できたことで、子どもは次の思考の段階に進むことができ、自分で問題の解決策にたどりつくことができるのです。
『わたしメッセージ』で自分の問題を相手の問題として認識してもらうだけでは、問題の解決になりません。
あなたの「わたしメッセージ」が子供に問題を引き起こしたのだから、いまこそ理解と受容を示すときである。
トマス・ゴードン 著 近藤千恵 訳 『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』 第6章 「わたしメッセージ」を使う
中略
子供は、親が自分の気持ちを理解してくれたとわかったあとは、自分の行動を変えることが多い。ふつう、子どもが望むのは、「自分」の感情を親のあなたが理解することであって、いったんその理解が得られれば、こんどはあなたの感情についてなにか建設的なことをする気になる。
『わたしメッセージ』と『能動的な聞き方』で解決策にたどり着けない欲求が対立する状況もあります。『親業』では『勝負なし法』というどちらも負けない解決策もすすめています。さらに、それでも解決できない根本的な価値観の違いの対立についての向き合い方も提案しています。
書籍『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』の紹介
ゴードン博士の『子どもは自立心があり、協調的で自分で自分の行動に責任のとれる人間になるのが好ましい』とする哲学が詰まった1冊。
まとめ:『わたしメッセージ』を調べたら、素敵なコミュニケーションメソッド『親業』に出会えた
今回は『親業』の『わたしメッセージ』を取り上げました。『わたしメッセージ』とは相手の行動から生じた自分の問題を相手の問題として認識してもらうコミュニケーションスキルです。
『わたしメッセージ』の使い方のポイントは以下の通りです。
- 相手の『行動』を『非難がましくなく』、『影響』を具体的に、『感情』を率直にのべる三部構成で述べる
- 子供が信用できるように、『自然に出て』、『ホンネ』で、『隠れた議題がない』ように述べる
- 主語をわたしにした『あなたメッセージ』には気を付ける
- 同じ問題行動からでた否定的感情を強調しない
- 怒りはのせない
『わたしメッセージ』の特徴は以下の通りです。
- 対話の解読が容易になる
- 他者への影響が明確になる
- 親が自分を隠さずにさらけだせる
- 良い悪いの評価をしない
ぴょん吉的には『わたしメッセージ』を正しく使うと、人が行動を起こしたくなる『有能感』『関係性』『自律性』の欲求を満たしやすくなると考えます。
『わたしメッセージ』の限界と対策については以下の通りです。
- 指示する時に適していないから、『予防のわたしメッセージ』を使って事前に対応する
- 条件のない「受け入れ」がないと成り立ちにくいから、普段から『受動的な聞き方』で相手に「受け入れてもらっている」という感覚をもてるようにする
- 相手の問題解決には効かないから、『能動的な聞き方』で相手の「自分で問題を解決したい」という気持ちを促す
『わたしメッセージ』のことを調べたら『親業』にたどり着きました。『わたしメッセージ』の他にも『能動的な聞き方』『勝負なし法』と『わたしメッセージ』と補完的なスキルもありました。
本場の『PET:Parent Effectiveness Training』は私が生まれる前(40年以上前)よりあります。『能動的な聞き方』はアクティブリスニング、『勝負なし法』はWin-Winと言い換えると、今でも良く耳にする概念です。
個人的に『親業』は人間関係の原則に則った概念なのではないかと感じました。
小さいお子さんと接している方にお勧めしたいです。
幼児、小学生、中高生それぞれ専用のケースブックもあり、よくある事例も多く紹介されていました。
全国で公式の講座を開催されていますので、読書より実践派の方は一度検索してみてください。
書籍内では『自主性』がときどき出ていました。『自主性』といえば、『主体性』。『主体性』といえばぴょん吉(笑)。主体性好きな私と『親業』の考え方はあっているのかも知れません。
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主体性を育む方法はたった1つ|刺激に対する反応の選択を意図的に行うだけ
余談:あえて一冊を選ぶとしたら『新装版 理由ある反抗』
今回は『わたしメッセージ』を勉強するために、以下の4冊を読みました。
- 『親業 こどもの考える力をのばす親子関係のつくり方』
- 『自立心を育てるしつけ』
- 『新装版 理由ある反抗』
- 『「親業」ケースブック・幼児 園児編』
全部『わたしメッセージ』を学ぶために重要だと感じました。読みたいけど、そんなに読めない方には3『新装版 理由ある反抗』をお勧めします。理由は、分かり易く項目だてて説明されているからです。
次に4のケースブックです。ケースブックは他にも小学生編と中高生編があるので、関わるこどもの年代に合わせて選択するのが良いでしょう。
1と2は『PET』発案者のトマス・ゴードン博士の書籍です。トマス・ゴードン博士の哲学や考え方を知ることが出来るので、『親業』の深い理解に繋がると思います。
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書籍紹介
書籍『新装版 理由ある反抗』の紹介
『親業』の理論が分かり易く解説された一冊。ぴょん吉的には、『親業』を学ぶための一冊目におすすめ。
書籍『親業・ゴードン博士 自立心を育てるしつけ』の紹介
『親業』のもととなる『PET:Parent Effectiveness Training』考案者の書籍。叱ることと褒めることの限界を述べ、別の方法を提案している一冊。
こちらはおそらく絶版になっており、中古しか見つかりませんでした。
書籍『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』の紹介
ゴードン博士の『子どもは自立心があり、協調的で自分で自分の行動に責任のとれる人間になるのが好ましい』とする哲学が詰まった1冊。
書籍『「親業」ケースブック 幼児 園児編』の紹介
ほとんどがケース紹介です。ミニ講座として『わたしメッセージ』の説明もありますが、他の書籍の縮小版的印象でした。
ケースの等身大な印象が、自分でも出来そうと勇気づけてくれる一冊。
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